女性の泌尿器科疾患
女性には、女性特有の月経や妊娠、出産、閉経などの活動があるため、男性とはやや異なる症状を呈する泌尿器疾患があります。
主な症状としては、頻尿や尿漏れ、排尿痛や残尿感に加え、血尿などを起こすこともあります。
尿のトラブルは加齢によるものと判断してしまうケースが多く見られますが、何らかの病気が関与している可能性もあり、中には長期間放置すると腎臓などに障害をきたす恐れもあります。
気になる症状が現れた際には、自己判断せずにできるだけ早めに泌尿器科を受診するようにしましょう。
このような症状をお持ちの方へ
主な女性の泌尿器科疾患
膀胱炎
膀胱炎とは、尿路感染症のうち下部尿路感染症に分類される感染症です。膀胱炎は女性に多く、特に妊娠可能な年齢でよくみられます。膀胱炎を何度も繰り返す女性もいます。膀胱炎が女性に多い理由としては、女性の尿道が短いことや、細菌が豊富に存在する腟や肛門と尿道との距離が近いことなど、いくつかの理由が挙げられます。
主な症状としては、排尿時の痛みや灼熱感・残尿感・頻尿・尿意切迫・血尿などが見られます。通常その典型的な症状に基づいて診断できます。尿検査では、排尿時に最初に出てくる尿(初尿)は取らずに途中の尿(中間尿)だけを採取することで、腟や尿道の先端にいる細菌が混入しないようにします。さらに、採取した尿の白血球および赤血球の数や、細菌の有無を調べます。さらに、尿培養検査(採取した尿を臨床検査室で培養する検査)を実施し、細菌の数や種類・薬剤の感受性などをチェックします。
通常、膀胱炎は抗菌薬で治療します。
尿路感染症
尿路感染症とは、腎臓から尿道に至る尿路に病原体が感染して起こる疾患で、腎臓(腎盂腎炎)が侵される上部尿路感染症と、膀胱(膀胱炎)・尿道(尿道炎)および前立腺(前立腺炎)などが侵される下部尿路感染症に分類されます。
主な症状は、腎盂腎炎では悪寒・発熱・感染側の腰部痛・吐き気・嘔吐、そして病状が進行すると敗血症も発症します。
症状としては、膀胱炎では排尿時の痛み、残尿感、頻尿、血尿などがみられます。また、尿道炎では排尿時の痛み、頻尿、尿意切迫などの症状がみられます。そして、前立腺炎では発熱・排尿時痛・排尿障害などの症状がみられます。
なお、男性よりも女性の方が尿道が短い・尿道と肛門が近いことなどから、尿路感染症を起こしやすい傾向があります。また、男性の場合でも、前立腺肥大症を発症していると尿路感染症の発症リスクが上昇するという報告もあります。したがって、前立腺肥大症の管理と治療は、尿路感染症の予防にも重要な役割を果たすと言えます。
腎盂腎炎
腎盂腎炎とは、細菌が腎臓に感染して炎症が起こる疾患です。
主な症状は、発熱・腰背部痛・寒気/震え・吐き気/嘔吐・頻尿/排尿時痛などの膀胱炎症状などですが、重症化すると敗血症を発症し、命の危険を伴うこともあるため、気になる症状が現れた際にはできるだけ早めに医療機関を受診し、適切な治療を行うことが大切です。一般的に高齢の方や糖尿病に罹患している方、ステロイドを内服している方などは重症化する可能性が高まるため、特に注意が必要です。
腎嚢胞
腎嚢胞とは、腎臓にできる液体が貯留した嚢状の袋のことを指します。多くの場合は症状がなく、健康への影響もないため特に治療をせずに経過観察で問題ありません。ただ、まれに嚢胞内で出血を起こしたり、感染することがあるため、定期的に検査を行って状態を把握しておくことが大切です。
尿失禁
尿失禁は、自分の意思とは関係なく尿が漏れてしまうことと定義づけられ、40歳以上の女性の4割以上が経験してしますが、羞恥心により我慢されている方が多いと言われています。また、尿失禁は、腹圧性尿失禁(SUI)、切迫性尿失禁(UUI)、溢流性尿失禁、機能性尿失禁に分類されます。腹圧性尿失禁は、重い荷物を持ち上げた時、咳やくしゃみをした時など、お腹に力が入った時に尿が漏れてしまう尿失禁です。また、切迫性尿失禁は尿がしたくなるとトイレまで我慢できずに漏れてしまう尿失禁です。そして、溢流性尿失禁とは尿が出しにくいことが原因で尿が膀胱からあふれて出てしまう尿失禁であり、尿が出にくくなる排尿障害が必ず併存します。排尿障害を起こす代表的な疾患には前立腺肥大症がありますので、溢流性尿失禁は男性に多くみられます。機能性尿失禁とは、身体運動機能や認知機能など精神機能の低下により起こる尿失禁です。
治療法は尿失禁のタイプにより異なりますが、腹圧性尿失禁や切迫性尿失禁では骨盤底筋体操や行動療法、薬物療法、体重コントロール、手術療法などによって改善を図ります。
尿路結石症
尿路結石症は、アジアで最も多くみられる泌尿器科疾患の1つであり、腎臓、尿管、膀胱、尿道などの尿路に結石が生じる疾患です。症状としては、激しい痛みのほか、血尿・頻尿・排尿痛・排尿障害や、吐き気、嘔吐などを引き起こし、中には腎盂腎炎を併発して38~40℃以上の発熱を引き起こすこともあります。
尿路結石症が疑われた場合には、超音波検査やCTなどを行って結石が生じている場所や大きさ・状態などを確認し、適切な治療へと繋げます。なお、結石の状態によっては自覚症状がないまま結石が尿路に長期間留まって腎機能障害を引き起こす恐れもあるため注意が必要です。
過活動膀胱(OAB)
過活動膀胱とは、尿意切迫感があり、頻尿および/または夜間頻尿を伴う症状症候群とされています。つまり、過活動膀胱では、突然起こる我慢できないような強い尿意である尿意切迫感、日中に何回もトイレに行く頻尿、尿意のために睡眠が中断される夜間頻尿、我慢できずに尿がもれてしまう切迫性尿失禁などの症状がみられることもあります。
2003年の報告では40歳以上の日本人の8人に1人が過活動膀胱の症状を持つといわれ、患者数は1,000万人を超えると推定されていました。過活動膀胱の原因はしっかりとは解明されてはいませんが、加齢、肥満、メタボリック症候群、高血圧など、さまざまな病気が関係していると考えられています。
主な治療法は、生活指導・膀胱訓練・理学療法などの行動療法から始め、薬物療法、また、それらの治療で効果が不十分な場合には膀胱の筋層内へのボツリヌス毒素の直接注入療法・刺激療法などが検討されることもあります。ボツリヌス毒素の直接注入療法なども当院で行っておりますので、症状のある方・気になる方はお気軽にご相談ください。
神経因性膀胱
神経因性膀胱とは、神経の異常が原因で起こる膀胱機能の障害です。脳や脊髄などの中枢神経や、脊髄〜膀胱までの末梢神経の経路に異常をきたすことで、尿を貯めたり(蓄尿)、出したり(排尿)する伝達がうまくできなくなります。
主な原因としては、中枢神経系(例:脳卒中、脊髄外傷)、末梢神経系(例:糖尿病性、アルコール依存性、ビタミンB12欠乏性の神経障害、椎間板ヘルニア、骨盤内手術による損傷)、またはその両方(例:パーキンソン病、多発性硬化症、梅毒)が関与する場合があります。
主な症状は尿漏れ、頻尿、尿意切迫、尿意消失などです。
治療では、薬物療法やカテーテル使用などがありますが、治療を行っても改善が難しいケースも少なくありません。
腎機能障害
腎機能障害は、急性腎障害(AKI)と慢性腎臓病(CKD)の2種類に大別されます。急性腎障害とは、数時間~数日の間に急激に腎機能が低下する状態です。また、慢性腎臓病とは、何らかの腎障害が3ヶ月以上持続する場合と定義され、症状が出現することはほとんどなく、蛋白尿(尿検査)や腎機能異常(採血検査)により診断されます。泌尿器科では主に急性腎障害のコントロールを行いますが、急性腎障害は病態により、腎前性、腎性、腎後性に分類されます。腎前性とは腎臓への血流が低下する場合におこり、脱水・血圧低下などで起こります。腎性とは腎臓そのものに障害がある場合であり、血管性・糸球体性・尿細管/間質性などの要因があり腎梗塞・腎炎・薬剤などで起こります。また、腎後性とは尿路の狭窄または閉塞による場合で尿路結石などで起こります。
急性腎障害の症状としては、尿量減少、むくみ、食欲低下、全身倦怠感などが認められます。一方、慢性腎障害の場合は腎臓の働きがかなり低下しないと症状は目立たないため、初期の段階では自覚症状があまりなく、病状が進行するとむくみ、手足がつる、倦怠感、つかれやすさ、皮膚のかゆみ、嘔気、不整脈、息切れなどの様々な症状が現れるようになります。
なお、急性腎障害の場合、腎機能の回復は原疾患や合併症の状況によって異なり慢性腎不全に移行してしまう場合もありますが、速やかに治療を行えば改善を見込めることも多いため早めに医療機関を受診することが大切です。慢性腎障害の場合は、上記の症状が現れた時には病状がすでに進行している状態であることが多いため、治療が困難となるケースが多く見られます。
骨盤臓器脱
骨盤臓器脱とは、骨盤の底を支えている骨盤底筋が緩んでしまい、膀胱や子宮、腟、直腸などの骨盤内にある臓器が膣の方から下垂し、出てくる病気の総称です。主に加齢や出産などによって骨盤底筋群が緩むことが原因と考えられています。
トイレやお風呂でボールのようなものが股から出てきた、触れたなどで気がつく方が多いようです。また膀胱が下がることでおしっこが近い(頻尿)、出にくい(排尿困難)、もれる(尿失禁)といった症状や直腸が下がることで便が出にくい(排便困難)などの症状があります。
治療法としては、保存的治療と手術療法の2つに大別され、保存的治療としては、骨盤底筋体操・ペッサリーなどの膣内装具挿入などがあります。また、保存的治療で対応困難な場合などは手術治療も検討します。
尿道カルンクル
尿道カルンクルとは、女性の外尿道口に良性のポリープができる病気です。ポリープの大きさは通常1−2cm程度で、主に尿道口の後壁(6時方向)にできます。
一般的に自覚症状に乏しいために気づかないことも多く、ポリープからの出血により「排尿後、ティッシュに血が付いた」と言って受診される方もいらっしゃいます。また、排尿時の痛みを起こすこともあります。
治療は症状がない場合は経過観察のみで済むことが多いですが、症状がある場合には軟膏の使用や、症状が強いまたは症状が改善しない場合には手術治療を検討することもあります。
間質性膀胱炎・膀胱痛症候群(IC/BPS)
間質性膀胱炎・膀胱痛症候群(IC/BPS)は、その定義は明確ではありませんが、膀胱に原因不明の障害がおこり、それによって膀胱痛、頻尿・夜間頻尿、尿意亢進、残尿感などの症状が現れる病気とされています。
診断は上記などの症状があることと、膀胱の感染症・悪性新生物・尿路結石・過活動膀胱などの他の疾患を認めないことで診断されます。また、内視鏡検査で膀胱の内側にハンナ病変を認めた場合は間質性膀胱炎(ハンナ型)、ハンナ病変がない場合は膀胱痛症候群と診断され、間質性膀胱炎(ハンナ型)は厚生労働省の指定難病とされています。
治療としては、緊張の緩和や食事指導などの保存的治療、抗うつ薬の内服治療、膀胱水圧拡張術などがありますが、それらの治療で効果がない場合にはさらなる手術療法を検討することもあります。
膀胱がん
膀胱がんは、膀胱にできるがんの総称です。膀胱がんの大部分(90%以上)は、膀胱の内部を覆う尿路上皮にできる尿路上皮がんです。尿路上皮がんは、がんが膀胱の壁にどのくらい深くまで及んでいるか(深達度)によって、筋層非浸潤性がんと筋層浸潤性がんに分類されます。
主な原因・リスク因子として、もっとも重要なリスク要因は喫煙です。喫煙者は、非喫煙者に比較して2~5倍膀胱がんの発症リスクを高めると言われています。また、一部の化学染料もリスク要因とされています。その他、シクロフォスファミド・フェナセチン含有鎮痛剤の連用、膀胱の慢性炎症などが知られています。
症状としては、赤色の尿が出ることや、頻尿・排尿するときに痛みがあるなど膀胱炎のような症状が最も一般的です。また、がんが進行すると、尿が出にくくなったり、わき腹や腰・背中が痛んだり、足がむくんだりすることもあります。
膀胱がんは、病状が進行すると膀胱全摘術などが必要になることもあり早期発見・治療が重要となりますので、痛みがない、あるいは一度きりで血尿がなくなったからといって自己判断せず、できるだけ早い段階で当院までご相談ください。
腎臓がん(腎がん・腎細胞がん)
腎臓がんは、腎臓の細胞ががん化したもので、腎がんともいいます。このうち、腎実質の細胞ががん化して悪性腫瘍になったものを腎細胞がんといいます。腎臓がんのほとんどが腎細胞がんであるため、一般的に「腎臓がん」とは腎細胞がんのことをいいます。腎細胞がんの発症に関係している特定の要因についてはよくわかっていませんが、喫煙、肥満、高血圧が関係するだろうと考えられております。また、長期間に及ぶ人工透析治療・遺伝との関係も知られています。
初期の段階では自覚症状に乏しく、そのため、小さいうちに発見される腎臓がんは健康診断や、他の病気が疑われたために行うCT・エコー検査などで偶然に発見されるものがほとんどです。進行すると腹部のしこり、背中の痛み、血尿、全身の倦怠感や発熱、体重減少などの症状を伴うようになります。
近年では治療の際にロボット手術が行われることも多く、当院では手術前後のフォローも行っております。
腎盂尿管がん
腎盂尿管がんとは、腎盂にできるがんである腎盂がんと、尿管にできるがんである尿管がんをまとめた言い方であり、この2つは同じ組織型(がんの種類)であり治療法にあまり違いがないため、まとめて「腎盂・尿管がん」として表現することが一般的です。
主な症状は激しい血尿や腰/背中の痛みで、中には排尿の際に血液の塊が出ることもあります。また、がんが尿の流れを阻害するようになると、水腎症を発症して腎機能障害を引き起こすこともあります。
主な発症原因は喫煙が最も重要な危険因子とされていますが、その他に医薬品・慢性感染症・化学発がん物質の曝露・職業性発がん(石油、木炭、アスファルト、タールなど)などがあります。